KIKO
現役の児童発達支援管理責任者です
1歳6か月児健診や3歳児健診に行って
「少しことばの発達が遅れていますね」
と、言われたり
幼稚園や保育園の先生に
「ことばの遅れが気になります」
と、言われることがあります。
「えっ?うそ? この年齢だったらこのくらいなんじゃないの?」
「家では全然困ってないです!言ってることもちゃんとわかっています」
「パパも小さいころしゃべらなかったみたいだけど、小学校入ってからおしゃべりになったみたいだからこの子も小学生になったらおしゃべりになるかなって思ってた」
などなど、ことばのことを指摘されてびっくりしてしまうお母さんもいますし
「やっぱりですか!? お姉ちゃんはこの年齢のときもっともっとしゃべってた」
「おばあちゃんも心配して、一度病院に行ったら?って言われてたんです」
など、やっぱり言われたか~と自分でも気になっていた、というお母さん
「『かきくけこ』が『たちつてと』になってるんです!『きりん』のことを『ちりん』って言ったり」
「たくさんしゃべるんですけど、不明瞭っていうか宇宙人みたいに何を言ってるかわからない」
など、ある程度分析済みのお母さんもいます。
私たち児童発達支援管理責任者が働く、放課後等デイサービスや児童発達支援のサービス利用を希望されて訪れる保護者の方々も、ことばの遅れを心配されてやってくる方がたくさんいらっしゃいます。
「ことばの遅れ」と言っても、それがどのような状態のことなのか 様々なケースがあると思います。「ことばの遅れ」を指摘されたお子さんも、その状態はひとりひとり違っていると思われます。
今回はことばの遅れを指摘されたらどうしたらよいのか、お家でできることは何なのかを考えるために、言語指導の経験をもとにまず遅れにはどのようなケースがあるのかわかりやすく伝えていきます。
ことばの遅れってどういうこと?
「ことばの遅れ」とはどのような状態のことをいうのでしょう。
それは「その年齢の平均的なことばの発達の状態とくらべて遅れがある状態」ってことです。
「ことばの遅れ」は病名ではありません。はっきりとした定義やチェックリストがあるわけでもありません。平均的なことばの発達にめやすはありますが、ことばの発達はとてもとても個人差が大きく、今この子の状態が「正常」なのか「異常」なのか判断するのはとても難しいことです。
しかし、医師によってことばの遅れを指摘されたケース以外でも、保護者の方が「ちょっとことばが遅れているかも」と感じたり、保健師、保育士、幼稚園の先生など日常的に多くの子どもたちを見ている人が「平均的な発達から遅れている」と感じたなら、確かに「ことばが遅れている」と考えてよいと思います。
ことばが遅れているかも、と思ったら次にすることは「ことばの成長を促すこと」です。
本当にことばが遅れているのかいないのかと悩んだり調べたりする前に、まずできることをやってみましょう。あとからことばに問題がなかった!という場合でも「ことばの成長を促すこと」はとても良いことです!
ことばの成長のためにできることに取り組む中で、専門機関への相談、医療受診や療育機関の利用を考えていくとよいと思います。
ことばの遅れにはどのようなケースがあるのか
ことばの遅れに気づくためには、子どもの平均的なことばの発達を知ることが大切です。
なんとなくでよいのでおさえておきましょう。
子どものことばの発達
初めて話すことばを「初語(しょご)」ことばを話し始めることを「始語(しご)」といいますが、その時期はだいたい1歳前後です。
厚生労働省における乳幼児身体発育調査の結果(平成22年度)を見ると、1歳~1歳1か月未満で57.6% 1歳6か月~1歳7か月で94.7% に始語があります。
1歳6か月児健診では「パパ」「ママ」「まんま」「ばば」「ワンワン」「バイバイ」「イタイイタイ」「あっち」「イヤイヤ」「ないない」「あった」「ブーブ」など10語くらいことばが出ているかもしれません。
ちなみに同じく乳幼児身体発育調査(平成22年度)によると、1歳3か月~1歳4か月未満でひとり歩きができるお子さんが92.6%です。
90%以上の子に始語がみられ、90%以上の子がひとり歩きができるる時期に1歳6か月児健診が設定されていることは、とても合理的なことだと思います。
ことばが出ているか、ひとりで歩けるかは1歳6か月児健診の2大チェックポイントです。
さて、かわいい片言を話していた子どもたちは2歳くらいになると200語くらいのことばを覚え「ワンワン いた」「ブーブ ちょうだい」など2語文を話し始めます。
3歳くらいになるとつかえることばは1000語を超え、3語文以上の長いお話ができるようになり会話が成立するようになります。
3歳児健診では、2語文が出ているか会話ができているかなどがチェック項目になると思われます。
ことばの遅れのケース
具体的にはことばの遅れにどのようなケースがあるのでしょう。
発達の時期が遅れている
1歳6か月児健診の時にはことばがなく、半年後2歳になって2~3語ことばが出はじめた とか3歳児健診の時に2語文がでていないなど本人なりの成長は見られているけれども平均的な発達の時期から遅れがみられる状態です。
有意語がない
有意語(ゆういご)とは意味のあることばです。有意語がない状態というのは、何もしゃべらないという場合もありますし「ピシャパチリチリ!」「キャーチミ!」「アミマ」「キーーーコ」などなんだかよくわからないことばをたくさんしゃべっているのだけれども「ママ」とか「ブーブ」など意味のあることばは出ていないという場合もあります。
発音できない音がある・発音不明瞭
「キリン」が「チリン」「オカシ」が「オカチ」「イス」が「イシュ」になるなどうまく発音できない音がある、また、有意語がないわけではなく家族は何を話しているのかわかるのだけれど、発音が不明瞭で言いたいことがつたわりにくい状態。「構音障害(こうおんしょうがい)」といわれる状態です。
語彙が少ない
知っていることばが少ない状態です。例えばりんごをもらった子に「何をもらったの?」と尋ねたとき、「りんご」ということばを知らなければ答えることはできません。「いすを持って、前に来てください。」と指示されても「いす」や「前」がわからなけば、指示に従うことはできません。
2語文、3語文が順調に話せていても語彙が少ないお子さんはいます。
知識が少ない
何に使うものなのか、ものの用途がわからなかったりしくみや理由がわからないなど自分の身の回りのできごとについて理解が深まっていない状態です。会話が続きにくかったり質問に答えられないことがあります。
自分の思いを伝えるのが苦手
心の内側に伝えたい思いはあるのにうまくお話できない状態です。うまく言えなくて癇癪をおこしたりお友だちを噛んでしまうお子さんもいます。
聞き取りが苦手
人の話すことばを聞き取って理解することが苦手なお子さんがいます。ルールや方法をことばで伝えてもわからなかったり、大事なお話を聞き逃したりすぐに忘れてしまうことがあります。ことばではなく図や動画など目で見て理解する方が得意なお子さんもいます。
概念理解が難しい
鼻=はな、母=ママ、のようにはっきりとひとつの名前がついているものは覚えられますが、形のないものや大きなまとまりをあらわすことばの理解が進まないお子さんがいます。
概念(がいねん)とは、ものの名前ではなく「〇〇とはこういうものだ」と説明できるものごとの認識のことです。
例えば「動物」とか「飲み物」のようなグループが理解できなかったり「時間」や「時の流れ」また「数」や「空間位置」が理解できないお子さんがいます。
もちろん、赤ちゃんのころは単語も概念もなにもわからなくて当たり前なのですが、単語はよく耳にしたり「これは鼻、はなよ。」と教えてもらったりして少しずつ覚えていきます。でも「人間ではなくて、耳があって、しっぽがあって、四足歩行していて、鳴き声をあげたりするのが動物よ。」などと概念を教えることはおそらくないでしょう。私たちは概念を日々の生活の中で自然に身につけてきているはずです。
でも、概念が身についたのか身についていないのか確かめることは難しくお子さんに身についていない概念があっても、まわりの大人は気づきにくいかもしれません。
私が「苦手な子が多いなぁ…」と感じる概念に「前」があります。
「前」は何か基準になるものがあってそのものからみて前方のことですよね。でも「前」って一か所じゃないし、場所だけでなく時間の地点にも使われることばです。
「はーい、前に集まってくださーい。」と保育園の先生が言ったとします。どこに集まればいいのでしょう。
先生の前?教室の前?黒板の前?それとも自分の前?
先生は廊下に移動してまた言います。
「前の人から順番にお部屋から出て先生の前に並んでね。おしゃべりはなしよ。前から言ってるでしょう。」
「ほら、〇〇くん、△△ちゃんの前でいいのよ。並んだらちゃんと前を見て。もっと前に来て。そっちじゃないでしょう。どこ見てるの?」
「前」がはっきりわからない子は大混乱です。
そのほかにも
人との会話のキャッチボール、やりとりがなかなかできないお子さん、~を、~が、~の、~に、など助詞が意味するものがわからないお子さん、似たようなことばを混同してしまうお子さん…などなど「ことばの遅れ」には様々なケースが存在します。
ことばが遅れる原因は?
〇〇だからことばが遅れています。
と、たった一つの原因でことばの遅れがあるわけではなく、環境や本人の性格など様々な原因が組み合わさり遅れとなっているのではないかと思います。
私は医師ではないので診断はできませんが、言語指導や療育を開始する前に保護者の方にいくつか質問をさせていただいてその後のプランを立てています。
プランに基づいて指導や療育を開始して効果があらわれたら、原因かもと考えたことが当たっていたということになります。
いくつかの質問とは次のようなものです。
言っていることを理解しているようですか?
「〇〇ちゃん こっち来て」
「ゴミ ポイしてきて」
「これ パパにあげて」
などこちらの言っていることを理解して行動していますか?
この質問の答えが「いいえ」なら、聞こえに問題があったり理解力に問題があったり情緒に問題があるかもしれません。
首すわりやハイハイなど運動発達は順調でしたか?
この質問の答えが「いいえ」なら唇や舌、のどの筋肉の動きや力が弱かったり、呼気(こき〈吐く息〉)が弱く発音が不明瞭になっているのかもしれません。
中耳炎の既往歴はありますか?
滲出性中耳炎にかかっている、かかったことのあるお子さんは人の話しことばに興味をもって細かな発音を聞き分ける経験を重ねる時期に音が聞こえにくい状態だったかもしれません。新しく覚えたことばをあいまいな発音で覚え音の聞き分けが苦手なのかもしれません。
お父さんお母さんはおしゃべりですか?
家族構成や大人に囲まれて育っているかも質問します。
お子さんと二人きりでずっと過ごしていて、あまり話しかけていませんとおっしゃるお母さん、また逆に父母祖父母が次々にたくさんかかわりお子さんが声を発する機会がないという場合もあります。
どちらも「会話」の経験が不足しているかもしれません。
お子さんはどんな性格ですか?
「のんびりしています」
「じっくり集中して遊んでいます」
「慎重です」
そんなお子さんは性格的におしゃべりでないかもしれません。
普段どんなふうに過ごしていますか?
ご両親が社交的か、祖父母や親戚お友だちが近くにいるか、きょうだいはいるか、児童センターや保育園、幼稚園の利用などをお聞きしてお子さんが年齢に応じた様々な経験を積んでいるか確認します。
お話をお聞きすると、経験不足から知識や語彙が増えていないかもしれないと思うお子さんもいます。
また、テレビ、ゲーム、スマホなどメディアにふれる時間が長いお子さんは「会話」の不足の他、目から入る情報が多く耳から入る情報が少ないというアンバランスな刺激の中で過ごしているかもしれません。
ことばの遅れ以外にも気になることはありますか?
大切な質問です。
ことば以外の問題がないか確認させていただきます。
ことばの遅れの原因として、知的な遅れや自閉症スペクトラム、口腔内の障害、聴力の問題によるものなどがあり、受診治療が必要な場合があります。
しかし、このような場合でも言語指導や療育ができないというわけではありません。医療機関、教育機関、療育機関、そして家庭。みんなが協力して発達を促していくことで効果が大きくなることがあります。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
ことばの遅れには様々なケースがあることを知っていただけたと思います。
「知る」ということは、対策の第一歩です!次回はことばの成長のためにお家でできることを中心にお伝えしていきます。ぜひ試してみてくださいね。
こちらへ続きます